世界で一番可愛子ちゃんのふくへ
あれから今日で八日目だよ
チャオのがこの世を去った時 その日のうちにいろいろな手配を済ませ 覚えたてのギターで歌までうたって聴かせたあのなっちゃんも(チャオのこと10)想像していたより早すぎたお前の死にはさすがに動転していた
火葬のことを思い出したのは俺もなっちゃんも翌日の朝だったよ
すぐさま電話をするも予約が取れたのはその次の日の夕方だった
正直この時 俺はホッとしたんだ
すでに肉体だけになっちまったお前だけど あと一日一緒に過ごせる時間が伸びたわけだからな
ただ 結果として
仕事に出かける俺を恨めしそうに見つめる顔が見れないこと
仕事を終えて帰宅した時大きな声で吠えて出迎えてくれる姿が見れないこと
俺が晩飯を食ってる最中ご褒美を貰おうと何度も自主的オスワリを繰り返す姿が見れないことでかえってお前がもうこの世にいないということを思い知らされることになった
姿形はそこにあるのにだ
火葬の予約が取れた時間 当然俺は仕事のはずだった
ただ その日のラストは普段から付き合いのある湘南の美容師ミユキ
前日に理由を伝えると快く日時の変更を受け入れてくれた
そのおかげで早めに仕事を終えることができた俺は急いで家に帰った
予約の時間まではまだ余裕があったけど「いつも歩いた散歩道を最後にふくに見せてあげたい」というなっちゃんの提案によりお前を乗せて家を出たよ
ちっちゃな頃から車で出かける時は必ず自らすすんで座ったお気に入りの定位置だ
運転席の俺がちょっと振り向けば窓の外を興味深そうに眺めるお前の横顔が見えるそして俺の視線に気づくと必ず見つめ返してきていたあの席な
1時間ほどの待ち時間の間に辺りはすっかり暗くなっていた
チャオというのは花が似合うオトコだった
我が家にやって来た時点ですでに高齢だったし大きさ的にはあまり変わらなかったもののお前に比べて脚が短くずんぐりむっくりした体型で動きもゆったりしてた
だから走り回るよりものんびり歩いて花の匂いを嗅ぐことの方が好きだった
対してお前はとにかく走るのが大好きだった
空気を切り裂き物凄いスピードで風のように疾走するその姿に俺は毎度魅了されたし心底惚れ惚れした
ドッグランに行ってもどんな犬より走るのが速かったし疲れ知らずだった
それが俺の自慢でもあった
さしずめお前は草原の似合うオンナだった
例えもう立つことすらできなくなった今でもやっぱり家の中やアスファルトの上よりもこの場所がとてもよく似合っていたよ
向かった先はチャオもお世話になったここ
我が家から近く 静かな住宅地にあるとてもこじんまりした それでいて小綺麗で好感の持てるところだよ
到着するとすでに担当の人が出迎えてくれていて俺たちは指示に従い建物の中にお前を運び入れた
係の人に促され名残惜しそうに彼女が半歩下がると独りぼっちのお前を乗せた台は滑車によって真横にスライドされ真っ暗な穴の中に入っていった
すかさず重そうに軋む音を立ててドアが閉まり厳重なロックがかけられた
「吠えろ! ありったけの声で吠えろ!
俺の友達が家に遊びに来た時みんなを驚かせたあの大きな声で吠えろ!
ワタシは生きてるよ早くここから出して と吠えろ!!!
そうすりゃ今すぐ出してやる!
だから吠えろ!!!
ふく! 吠えろ!!!
ふくっ!!! 吠えろっ!!!」
この後に及んでこんなことを本気で考えたよ
なっちゃんが泣き止むのにはなかなかな時間を要した
俺は何度も外に出てタバコを吸った
思っていたよりかなり長く感じた時間が過ぎ 次に会った時 当たり前だけどお前は骨だけになってたんだ
思っていたよりかなり長く感じた時間が過ぎ 次に会った時 当たり前だけどお前は骨だけになってたんだ
毛も皮も肉も内蔵も何もなく ただの骨にね
推定7つも若いはずのお前の骨はチャオよりも確実に崩れていた
これが病気の仕業なのか薬のせいなのかを知る由もないけれど どちらにしてもお前の身体がかなり蝕まれていたことを物語っていた
彼女もまた俺たちと同じか それ以上にお前とのお別れを悲しんでいたよ
その骨を見て俺は驚いた
これが病気の仕業なのか薬のせいなのかを知る由もないけれど どちらにしてもお前の身体がかなり蝕まれていたことを物語っていた
そしてあのしんどそうな日々の痛みや辛さ 苦しみの壮絶さを思わずにはいられなかったよ
俺たちは指示通りの順番で骨を納めていった
あの立派だったお前の身体がどうしてこんなに小さな壺に入りきってしまうのかが不思議であると同時にこれで正真正銘二度とお前に触れることができなくなったことを実感した
またしても涙が溢れてきたよ
帰り道 なっちゃんはずっと泣き止まなかった
お前の入った骨壷を膝の上に抱えて泣き続けた
きっと俺と同じことを感じたろうし それ以上に多くのことを感じていたんだと思う
家に帰ってチャオのために作られた祭壇に並べたよ
恩人であるpooさんからはすでに綺麗な花が贈られてきていたんだ彼女もまた俺たちと同じか それ以上にお前とのお別れを悲しんでいたよ
てんちゃんはどこか神妙な顔つきで トラは相変わらず無邪気に遊んでたっけ