世界で一番可愛子ちゃんのふくへ
あの日から今日で五日目
毎日いい天気が続いてるよ
昨日は海外旅行から帰ってきた優が家に来てお前とのお別れをしていったよ
プーケットで過ごした楽しい日々から一転 車で空港まで迎えに来たなっちゃんから聞かされた訃報にさぞかし驚き悲しんだことだと思う
休日だったけど用事で朝から出かけていた俺が家に着いた頃にはだいぶ落ち着いててね
旅の写真を見せてくれたり いろんな話を聞かせてくれたり お互いが持ってるお前の写真を自慢し合ったりしたんだ
去年からここを出て暮らしはじめたから毎日一緒にいることはできなかったけどそれまでは本当にお前のことを可愛がり大切にお世話をしていたよなぁ
その後も頻繁に帰ってきては毎回必ず散歩に行ってた
そんな優からしたら受け入れがたいことだといのは容易に想像がつくよ
夜になり晩御飯を食べに行く途中 後部座席で突然泣き出した優に運転席の俺も助手席のなっちゃんもひとことも声をかけてやることができなかったっけ
俺はといえばあの日以降も朝の散歩は欠かさず行ってるよ
時には一人で 時にはなっちゃんと 10年間お前と毎日歩いたこの町を散歩してる
俺たち家族がこの町に住み始めてかれこれ25年になるんだ
若くしてできちゃった婚で結婚した俺となっちゃんは公団に申し込んだ
そしてたまたま当たったのがこの町なのね
子供達の成長と共に部屋数の多い棟に引越しはしたものの15年間ずっと団地暮らしだったよ
そして今から約10年前ほどマイホームを購入
それを機に犬を飼おうという話が持ち上がった
そしてやって来たのが ふく お前だったってわけな
当時すでに中学生二年と小学六年になっていた子供たちは転校を断固拒否!
仕方なく町内で手頃な建て売り住宅を探すしかなかった
何しろお金が無いわけだから選択肢はそんなにあるわけじゃない
俺の休みの度に不動産屋巡りが続いた
そんな中 やっと見つけたのがお前の暮らしたこの家だ
決め手は裏手に広がる田園風景だった
今でこそ後取りがいないためかそのほとんどは草むらになってはいるものの引っ越してきた当時は一面田んぼでね
時期になるとカエルの合唱が毎晩うるさいくらいでそれはそれは賑やかだったよ
でもそれが良かった
勝手口から一歩出れば見える景色
これだけでもこの家を買った甲斐があったと今でも思ってるよ
その後お前がやって来てからはそのことを特に痛感した
歩いてすぐのところに広がる一面の田園
俺たち家族は毎日毎日お前を連れてここを歩いた
雨の日も雪の日も台風の日も真夏の暑い日も真冬の寒い日も欠かさず飽きもせず毎日歩いた
景色は何にもかわらないのにお前だけがいない
その都度お前はとても嬉しそうにはしゃいだ
俺たちはお前の嬉しそうな顔を見るのが大好きだった
もう
お前はいない
呼べはいつものようにヒョッコリ現れるような気がしてならない
「ふくっ おいでっ」
呼べばいつも必ず駆け寄って来てくれてたのになぁ